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障害者の成功体験とは|強度行動障害の方が見せてくれた大きな成長
2026年7月5日
私が初めて障害者福祉の仕事に携わったのは、知的障害者の入所施設でした。
約90名の利用者さんが生活する施設で、私は約6年半勤務しました。
利用者さんの半数ほどは強度行動障害があり、多くの方が日常生活にさまざまな支援を必要としていました。
強度行動障害とは、重度の知的障害者や自閉スペクトラム(ASD)の方に生じやすく、自傷行為や他害、物損、激しいパニックなど、本人や周囲の生活に著しい支障を起こす行動が高頻度に起こる状態のことをいいます。
そんな中、私が担当していた男性の強度行動障害の利用者さんのことについて書いていこうと思います。
○担当利用者が抱える問題と支援目標
私が担当していたその利用者さん(今後Tさんと記します)は、生活面で様々な問題を抱えていました。
Tさんは、リラックスすることが難しく、常に身体に力が入っている状態で生活されていました。
居室にいる時は、着ている服を全部脱ぎ捨て、裸で過ごされていました。
何かに刺激され興奮すると、衣服や寝具を破ってしまい、その都度衣服や寝具を補充しなければなりませんでした。
Tさんは言葉を話すことができず、意思表示も難しい方ですが、嬉しい時は身体全体を使って、飛び上がって喜びを表現されていました。
Tさんは他者に対して暴力を振るったりすることはありませんでしたが、怒ると自傷行為が見られることがありました。
そんなTさんの生活が少しでも良くなるようにと、私が考えた支援目標は、 「リラックスできる環境作り」でした。
Tさんがどんなことでリラックスできるのか、全く分からない状況の中で作った支援目標ですが、案の定なかなか見つかりません。
Tさんが安心できるように優しく話しかけたり、大好きなコーヒーを飲みながらリラックスできる音楽を流してみたりと色々試してみましたが、なかなかリラックスできる状況は作れませんでした。
○問題行動から見えた解決策
ここでは分かりやすく「問題行動」と表現していますが、その一つひとつには本人なりの理由や意思表示があると私は考えています。
ある時Tさんが非常に興奮して、ご自身の衣類をビリビリに破っているところを目撃しました。
最初は興奮しながら、大きな声をあげて、衣類を破っていましたが、衣類を破っていくうちに、だんだん表情が落ち着いてくるのが分かりました。
その光景がヒントとなり私はTさんにスーパーのチラシを何枚か渡しました。
そしてTさんの目の前で、そのチラシを細かく千切っていきます。
それを見てTさんも、私と同じようにチラシを破っていきます。
そしてある程度時間が経ち、それぞれのチラシを比べてみると、私のチラシに比べてTさんが千切ったチラシは、もうこれ以上千切れようのないくらい細かく千切ってあったのです。
私は正直とてもびっくりしました。
これほどまで綺麗に細かく千切ってあるチラシを見たことがなかったからです。
そしてチラシを千切っている時のTさんの表情は、とても集中している様子でした。
チラシを千切り終わった時の達成感溢れる表情は、今でも脳裏に焼き付いています。
私はこれが、Tさんがリラックスできる道具になるかも知れないと思い、日中の作業の工程に入れるよう試してみました。

○Tさんの作業でできた役割
ある作業班では、牛乳パックから紙漉きを行い手作りのハガキを作る作業を行っていました。
紙漉きの工程は以下の通りです。
①牛乳パックの四面をハサミで切り長方形にする
②長方形にした牛乳パックを煮沸し滑りを取る
③煮沸した牛乳パックを手やハサミで細かく千切る
④細かくした牛乳パックにノリを入れながらミキサーにかけドロドロにする
⑤ドロドロになった液体をハガキサイズの枠に嵌めて固める
⑥固めた紙が乾いたらハガキの完成
ちょっと大雑把ですが、こんな感じで手作りのハガキができます。
そして私は③の工程に注目しました。
「これはTさんにもってこいかも知れない」
早速次の日から、Tさんはハガキ作りの工程作業に取りかかります。
なんとTさんが入ってから③の工程の進み具合が倍くらい早くなりました。
そしてTさんも作業に集中できているようで、とても良い表情をして取り組んでいました。

○その後のTさんのご様子
Tさんに作業の役割ができてから、Tさんの問題行動がなくなった訳ではありませんでした。
ただ、明らかに問題行動は減ってきたのが目に見えるように分かりました。
Tさんにとって、衣類や寝具を破ってしまうという行為自体をなくすのは不可能と言っても良いと思います。
なぜなら、それはTさんにとってある意味意思表示になっているからです。
嬉しい時は身体全体を使って喜び、怒る時は衣服を破る。
そして作業を始めてから、怒る頻度が明らかに減り、リラックスできる場面が多くなってきました。
これはTさんにとって、成功体験であるのは間違いないでしょう。
私はもう10年以上前にこの施設を退職しています。
もうTさんにお会いすることもないでしょう。
それでも私が辞めるまでに、Tさんの役割を見つけることができて良かったと思っています。
今でもTさんが元気で過ごされているかは分かりませんが、時々Tさんが笑顔でいる時の光景が思い浮かんできます。
私とそれほど歳も変わらないTさんが、いつまでも元気でいてくれることを願います。
○最後に
私は、どんなに重い障害を持っている方でも成長を感じたり成功体験をすることは可能だと思っています。
私は成功体験とは、「できることが増えること」だけではないと思っています。
「自分の役割がある」
「誰かの役に立てた」
「安心して取り組める時間がある」
こうした積み重ねも、大切な成功体験ではないでしょうか。
Tさんは、そのことを私に教えてくれました。
それが、その人の持っている「可能性」なのかも知れません。
私はこれからも、障害者の方々の「可能性」を信じて、支援に携わっていきたいと思います。
福祉の仕事はやりがいが大きい反面、心身への負担も少なくありません。一人で悩みを抱え込まず、国が用意している専門の相談窓口やガイドラインもぜひ参考にしてください。
現役の福祉職の視点からも、こうした公的サポートの活用を推奨します。
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